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by 唐草 [2023/03/07]



 空から街を見渡すと驚きに満ちている。10年ぐらい前に放送されていた口の悪い雲と一緒に空から街を見る番組が好きだった。地味な番組だったが、数年にわたって放送されていた。肉体の制約から解き放たれて鳥のように空から街を見てみたいと願う人は、思いの外多いようだ。
 とは言え、空から見ないと街の景色に驚きを見いだせないわけではない。空から見るとなんの変哲もない建物でも近づいてよく見てみると奇妙な現実が見え隠れすることもある。どこにもつながっていない階段や開けられない扉などの「トマソン」もその1つ。
 近所に数年前から気になっている建物がある。一見、なんの変哲もない古いアパートでしかない。目を凝らしてもトマソンのような風変わりなものもない。まるで目立ってはいけない背景画のようになんの特徴もなく静かに建っている。
 くたびれた細い手すりや階段の様子や瓦が敷かれた屋根の様子からすると昭和に建てられたものだろう。ぼくは四半世紀以上同じ場所に住んでいるが、その存在に気づいたのは4年前。それぐらい周囲に溶け込んでいる。
 そんな地味なアパートが気になったきっかけは、静かすぎるからだ。2階建てで8部屋ある大きなアパートだが、1度も電気がついているのを見たことがない。昼間は書き割りのように空間を埋めているが、夜に通ると不自然な闇がそこにあった。人と物に溢れた街で、そこだけ何もない感じ。だから逆に目立っていた。
 古くなって放置されたアパートは珍しいものではない。空き家は一様に朽ちていてすぐに人が住んでいないと分かる。だが、そのアパートは古びているがしっかりと手入れがなされている。どう見ても人が住んでいるようにしか見えない。
 しかし、いつ見ても夜に明かりがついていることはない。
 これだけでもかなり不気味な存在なのだが、空から地図を見てさらなる謎が発覚した。
 そのアパートへ通じる道がないのだ。四方を別の住宅の壁に囲まれている。近づくすべさえもないアパート。いったいなんのために建っているのだろう?街らしい雰囲気を演出するための背景美術としか思えない存在だ。