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重心論争

by 唐草 [2021/03/04]



 年々、毎週木曜日にぼくを悩ませる問題がある。それは自動車設計から日本の伝統的な家屋設計にまで通じる工学と物理に関することがらである。
 普遍的なテーマにも関わらず、ぼくが思い悩むのは決まって木曜日。時間も限定的で、午後1時ぐらい。
 悩みの種のは、毎週木曜日にやってくる生協の配達である。
 一見、生協の配達と工学や物理は無縁に見える。経済や農業のほうが結び付きが強いうように感じられるかもしれない。配達を受け取る者にとってもっとも重要で身近なのが、工学と物理に基づく知見だということは見逃されがちだ。
 生協の商品は発泡スチロールのトロ箱に入って届けられる。冷凍品の箱にはドライアイスが入っていて、冷蔵品の箱には何度も使い回せる青い液で満たされた重い保冷剤が入っている。野菜を冷やすのにドライアイスは冷たすぎるのだろう。
 届いた荷物を取り込んだあと、玄関先には保冷剤だけが入った空箱が残される。我が家の注文だと2,3箱になる。これが回収されるのは翌週。生協の顧客であるぼくは、保冷剤と空のトロ箱を1週間保管する責務がある。
 狭い玄関を効率よく使うためには空箱を重ねるしか無い。その際、重い保冷剤をどの箱に収めるのが良いのだろうか。
 ここで工学と物理の問題が生じるのだ。
 一般的に低重心のほうが安定が良い。運動性能の良いスポーツカーは、いかに低重心を実現するかがエンジニアリングの見せ所だ。その考えに従えば、一番下の箱に重い保冷剤を置くのが良さそうに思える。
 だが、それとは正反対の考え方がある。家屋のように動かないものであれば上部に重量物を載せて、その重さで安定を図るという考え方だ。これは日本家屋の瓦が果たしてきた役割である。
 玄関に置かれた空箱はコーナリングとは無縁。軽いので気にするべきは風で倒れることだけ。ならば家屋の思想に倣い上を重くするべきかもしれない。しかし、上部が重いと不安定なのも事実。箱は地面に固定されていないので、ちょっとぶつかっただけでも倒れてしまう。
 生協を利用して四半世紀以上経過しているが、低重心と高重心のどちらが適切なのか皆目分からない。今週も悩んだし、きっと来週も悩む。