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頭の痛い話

by 唐草 [2021/09/05]



 ネットで「頭痛を治す音楽がある」という話題を見つけた。ヒーリングミュージックという穏やかな音楽ジャンルは昔からあるが、それらは薬のように特定の効果を謳ったものではない。聞くと気分が落ち着く程度の効果しかない。治療ではなく、リラックスを目的としたアロマテラピーに近い存在と言えるだろう。
 だが、今回は明確な効用が挙げられている。半信半疑どころか、まったく信じないまま興味本位でどんな曲が頭痛に効くのか覗いてみた。それは、平沢進の『賢者のプロペラ』という20年ぐらい前の楽曲だった。ぼくは以前にこの曲を聞いたことがあるし、PS1の頃を思い出すような懐かしいCGのPVを見たこともあった。
 さて、頭痛を解消する曲の正体を知ったぼくが抱いたのは「平沢進かぁ」というシンプルだが含みのある複雑な感想である。
 平沢進は一部でカルト的な人気を誇る日本の電子音楽界の先駆者である。ぼくは映画監督の今敏が作品で効果的な使い方をしていたので知った口だ。独特の音楽は、奇妙で不気味な映画を引き立てていた。そこで、どんな音楽を作る人なのだろうと調べていくつかの楽曲に触れた。
 平沢進が、一度聞いたら忘れられない独特の音楽を作る優れた音楽家であることには異論はない。でも、ぼくは好きにはなれなかった。どの曲を聞いても、ぜんぜん違う曲のはずなのに同じ曲にしか聞こえないという奇妙な感覚に囚われてしまうからだ。他にはない個性が炸裂しているということなのかもしれないが、それがどうにも受け入れられなかった。あと、コミュニティーを覗くと面倒くさそうなファンが多そうだという偏見に満ちた感想を抱いてしまったのも良くなかったのだろう。
 視聴できる曲をいくつか聞いたが、アルバムを買うには至らなかった。今敏監督が亡くなってしまったので、新たな曲を聞く機会も途絶えていた。
 それが、思わぬ形での再開となったのが今回。
 ファンを考えるとよく訓練された嘘をついているようにしか思えない。電気グルーヴのライブの後に「今日の観客は、自分と瀧の奥さんとあと一人の3人だけだった」というツイートが大量に出回るのと同じ匂いがする。
 真偽はともあれ、なんとも頭の痛くなる噂話だ。