カレンダー

2022/05
    
       

広告

Twitter

記事検索

ランダムボタン

これが最後かもしれない

by 唐草 [2022/04/18]



 親が音楽CDをリッピングして音楽ライブラリのクラウド化を進めているのは先日書いたとおり。連日、DVDドライブが「ギュイーン、ギュイーン」と賑やかな駆動音を響かせている。
 60枚ぐらいリッピングしたので、PCの横にはうず高く積まれたCDケースが不安定な塔を築いている。それだけの量の音楽が、小指の爪サイズのSDカードに収まるんだから不思議なものだ。クラウドに送れば物理的サイズはゼロになる。
 音楽は空気の振動であり、目に見える実体はない。CDやレコードに押し込まれて円盤の形をしているよりも、クラウドに存在するほうが音楽本来のあり方に近いようにも思えてくる。
 ぼくもリッピングを手伝ったが、どのCDも20倍速ぐらいで変換されていく。10年前のノートPCでもこの速度で変換できるんだから、最新PCを使ったらもっと速いだろう。DVDドライブには24倍と書かれている。何に対して24倍なのかが分からないが、きっと変換速度がDVDドライブの読み込み速度の上限を超えるだろう。
 リッピング効率を上げるためにCDを入れれば自動的に変換を始め、変換が終われば自動的にCDを排出するように設定してある。だから、ぼくはPCの横に座って2,3分おきにディスクを交換するという流れ作業に徹していた。
 その途中で、ある考えが浮かんだ。
 この退屈な反復作業が人生でCDを触る最後の機会になるかもしれない。
 ずいぶん昔のことになるが、自分の小遣いで初めてCDを買ったときのことは鮮明に覚えている。ある漫画家がエッセイで触れていたUKテクノの大御所なんだけれども、ツタヤにはなかった。だから買いに行くしかなかった。CDショップ1階の明るいJ-POPコーナーを通り抜けて、ドキドキしながら薄暗い2階の洋楽コーナーに足を踏み入れた。これが今に続くぼくの音楽的嗜好のスタートとなった。
 漫画家は亡くなっているし、CDショップもない。店が撤退したあと百均になっていたが、再開発で建物も消滅。影も形も残っていない。
 残っているのは、リッピングした音楽データと懐かしい記憶だけ。