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オレンジの壁

by 唐草 [2022/06/06]



 家は、維持するのに手間のかかる資産だ。手入れを怠るとすぐに廃屋のようになってしまう。年に数度は、生い茂る草木を刈ったり、壁を洗ったりする必要がある。
 とはいえ、いくら頑張っても素人にできることには限りがある。十数年に一度ぐらいのペースで業者を呼んで大掛かりな手入れが必要になる。我が家も内装のリフォームから外装の塗り替えに至るまで様々なメンテを施してきた。
 いずれの工事も、何日もかかったし、業者の出入りも多い。工具の騒音が家々の間を響き渡った。近所の工事の喧騒を我慢できるのは、次に業者を呼ぶのは自分かもしれないというお互い様の精神があるからだろう。
 1週間続いてた向かいの家の塗り替え工事が終わった。足場工事と壁面洗浄はうるさかったが、塗り替えは静かなものだった。足場に張られたネットに映る人影がなければ、作業しているのかも分からなかっただろう。
 工事はトラブルもなく粛々と進んだが、思いもしない大問題が足場ネットの裏に隠れていた。
 工事前、隣家の壁面はパネル工法の建売住宅によくあるピンク味がかった暗めの落ち着いたベージュだった。目の端に入っても気にもとめないような色。
 ところがネットの中から出てきたのは、鮮やかな赤みの強いオレンジ色の壁だった。ミカンの色よりも濃く、よく熟したマンゴーの果肉のような色。
 地味な住宅街に突如登場したオレンジ色の塊の存在感は異様としか言いようがない。その姿は一般住宅には見えない。賑々しい飲食店のような雰囲気だ。お陰で窓から見える景色は一変した。静かな住宅街から駅裏の飲み屋街の一角にワープしたかのようだ。
 厄介なことに鮮やかなオレンジは陽の光をよく反射する。一日中夕焼け空みたいな光が差し込んでくるようになってずっと黄昏気分。
 人によって好きな色が異なるのは当然のこと。でも、それは自分本位な色を使って良いということではない。むしろ、周囲の人々にも配慮した色を使わなくてはならないということ。
 かなり不愉快なオレンジ色の壁を目の当たりにしてぼくができることは、隣家の壁が一日も早く汚れることを願うだけ。