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記憶を消す薬

by 唐草 [2020/07/22]



 記憶を消すことができる薬の開発が進んでいるという記事をネットで見つけた。なんともSF的な響きのあるタイトルに惹かれて、中身をざっと斜め読みしてみた。要約するとPTSDなどのトラウマ治療に使う薬の研究が進んでいるというような記事だった。技術的なことには殆ど触れられていなかったが(触れられていたら理解できなくて読むのを止めただろう)、医学と化学の発展を感じられる内容だった。
 1つの新薬が開発されることで病気に関する意識はガラリと変わる。コロナウイルスやHIVを筆頭にまだ特効薬のない病はたくさんある。その一方で、少し前まで不治の病だった症例が簡単な治療で治るようになっている。数年後、PTSDなんて町医者で数度投薬すれば治る病気へと認識が変わるのだろうか?
 それにしても記憶を制御できる薬というのは、今までに存在していなかったものなので怖くも感じられる。無知がもたらす本能的な恐怖だ。狙った記憶をピンポイントで消せるようなものでもないし、脳を初期化するほど強力なものでも無いだろう。それでも何かを強制的に忘れさせる(強力に封印する?)というのは、可能性だけでなく危険性も同時に秘めているように思えてならない。
 人は誰しも消し去りたい恥ずかしい記憶というものがあるだろう。いわゆる黒歴史だ。記憶を消す薬の存在を耳にして、思い出すだけで体がムズムズしてしまうような恥ずかしい過去の記憶を消し去りたいと願った人も少なくないのではないだろうか?もし、ピンポイントで自分の望んだ記憶を消せるのなら、恥ずかしい過去と決別するためにこの薬に手を出す人だっているかも知れない。
 でも、やめておいたほうが良いのではないかとぼくは考えている。
 ぼくにも、ここには書けない恥ずかしい過去がある。夜にベッドの中でふと思い出して「うぅ」と嗚咽に近い声を漏らしてしまうような類の記憶だ。この記憶を消せるなら消したいのだが、消した後の自分が怖いのだ。
 黒歴史は、ある種の抑止力となって日々の振る舞いを御している。もし、この記憶がなければ同じことをもう一度やってしまうだろう。当時は「若かったね」で済まされたが、この歳で同じことをしでかしてしまったら周囲の冷たい目に耐えられるとは思えない。痛すぎることをしでかす度に薬に頼って、薬漬けの人生を送る羽目になるだろう。潜在的ジャンキーが、ここにいる。