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世界の頂上

by 唐草 [2024/05/21]



 ぼくは英語にからきし弱いが、何の因果か海外製ソフトウェアの日本語ローカライズに関わっていた時期がある。明らかに人選ミスにも思えるが、英語しかできない人だと海外のプログラマーの言っている事ができず作業が暗礁に乗り上げることも少なくなかった。その結果、英語力よりもプログラムの知識を優先しての抜擢だった。
 たしかにプログラムを全く知らない人が、”%s”や”{1}”みたいなフォーマット指定子が入っている英文を渡されて困惑するのも無理はない。どんな値が代入されるのかを想像して指定子の順番を調整しながら訳すのは、もはやプログラミングだ。
 そんな経験があるので、ソフトウェアのローカライズには人一倍敏感だと自負している。先日公開したゲームも海外配信なんてこれっぽっちも考えていないけれど、英語モードを搭載している。英訳はGoogle翻訳任せでお粗末だが、指定子の設定は完璧だ。
 しかし、プロの仕事には遠く及ばないことは重々承知している。翻訳が酷いと言われがちなBethesdaのゲームだってぼくと比べたら次元が違う。本当に翻訳って難しい作業なのだ。
 ぼくがもっとも困難な翻訳だと考えているのは、一般名詞を固有名詞のように使った場合。
 例えば、ゲーム『Fallout 76』には「世界の頂上」というロケーションがある。英語名は”Top of the world”。このロケーションは山頂にある大型スキーリゾートで、そこにある建物の名前に由来している。実際に世界の頂上でもないし、ゲームでもっとも標高が高い場所でもない。あくまで施設名でしかない。
 この場合の”Top of the world”が固有名詞だということを考えると和訳は直訳の「世界の頂上」よりもカタカナ表記の「トップ オブ ザ ワールド」のほうがいいと思う。そのほうがリゾート施設の名前らしい雰囲気が出ると感じているからだ。それは”Disney Land”を「ディズニーの国」と訳すのが不適切に思えるのと同じ感覚。
 とは言え、どこまで日本語に置き換えるかの判断は非常に難しい。この判断はプログラマーには無理な仕事だ。