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さよならプレデター

by 唐草 [2024/04/03]



 「画像の中の文字を消せない?」と相談を受けた。
 行政の出す機密文書のような黒塗りであれば3秒でできる。だが、もっと高度な処理を要求された。始めから文字など存在しなかったように消してほしいそうだ。
 これはなかなか骨の折れる作業。しかも文字が載っているのは、カラフルな光が何層も重なって放射状に放たれている抽象的な画像。情報量の多い背景のせいで作業の難易度はかなり高い。
 これまでに似たような作業は何度か経験がある。画像編集ソフトの補修機能やスタンプツールを駆使して、画像内の似た部分をパッチワークのように張り合わせていくことになる。この作業は技量が結果に直結する。ぼくのように不慣れな者が作業をすると補修箇所に不自然な歪みが現れることがある。
 この歪みは俗にプレデターと呼ばれている。それは不自然に歪んだ修正部分が、まるで透明化したプレデターが潜んでいるように見えることに由来している。ぼくは、これまでに意図せず数体のプレデターを世に放ってきた。今日もまた新たなプレデター、今回は画像が小さいので過去最小のミニプレデーターを解き放つことになるかと思った。
 しかし、プレデターは現れなかった。
 プレデターの出現を防いだのは、ぼくのスキルではない。AIの功績だ。
 伝統的な方法による自力での修正をする前に最新テクノロジーを試した。消したい文字と周囲の背景をまとめて選択して背景で塗りつぶすようにだけ指示をだした。待つこと約30秒。その効果は目を見張るものだった。
 パッと見たところ始めから文字など存在しなかったような仕上がりだった。背景の複雑な模様も再現されている。今回は複雑だったことが功を奏したようで、つなぎ目は全然分からない。当然ながらプレデターの気配は微塵もない。明らかにぼくが手作業で文字を消すよりも質の高い仕上がりになっていた。
 驚くべきは質の高さよりも仕事の速さだろう。いくら慣れていても、この作業を30秒で終えるのは難しい。少なくともAIのように3パターンを用意するのは不可能だ。
 できると自負していることで初めてAIに敗北を感じた。