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非実在老人問題

by 唐草 [2012/01/08]



 「この社には、お狐様が奉られているのじゃ」
 このカッコ付きのセリフを読んで、どんな人が発言しているのを想像しただろうか?ぼくの企みだと杖をついた腰の曲がった白髪の老人を想像してもらいたいところ。会話文を書くのが苦手なので、そこまで具体的な想像をしてもらうのは厳しいだろう。とにかく老人が頭に浮かべば、ぼくの企みは大成功。もし、別の人が思い浮かんでいたら、即刻老人のイメージへ修正して欲しい。じゃないとこの先の話がややこしくなる。
 話し言葉の末尾に「じゃ」や「だのぉ〜」が付くと途端に加齢臭とは違う老人の気配が漂う。映画やマンガ、ゲームから小説に至るまで老人のセリフというと末尾に「じゃ」が付いている印象がある。
 でも、少なくともぼくは、自分の祖父母が「ほれ、お年玉じゃ」とか「よく遊びに来たのぉ」などと言っているのを耳にしたことがない。また、電車の中などの公共空間で話をしている年配者達の会話の中に、それらの老人言葉が含まれているのを聞いたこともない。
 果たして、現実の高齢者達は本当に「〜じゃ」とか言うのだろうか?少なくとも今の元気な高齢者の皆様は、そのような言葉遣いをしていないのではないだろうか?では、いつぐらいまでの老人は、「〜じゃ」と言っていたのだろう?
 親に聞いてみたが、親の祖父母-つまりぼくの曾祖父母-が「〜じゃ」と言っていた記憶は無いと言う。となると、戦前世代でも「〜じゃ」という喋り方は一般的でなかった可能性がある。確かに年齢を重ねるにつれ喋り方は変化していく。とは言え、積極的に老いを装う喋り方をしようと意識するとは思えない。
 誰もが知っている「〜じゃ」という老人らしい喋り方をする老人なんて実際には存在していないのかもしれない。ぼくたちは、ありもしない老人のステレオタイプに惑わされているだけなのだろうか?これが、非実在老人問題。
 そういえば、戦国時代ぐらいの高貴なお姫様喋りも「〜じゃ」という末尾だ。口語による記録がないので実際のところは闇の中。こっちも想像の産物かもしれない。