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まるで嵐の晩のように

by 唐草 [2024/03/20]



 裸電球の灯りが不規則に明るくなったり暗くなったりを繰り返す。これは古典的な嵐の夜を示す演出だ。古い映画やドラマで何度か目にしたことがある。
 嵐が電球を明滅させるのはどうしてだろう?強風で遠くの電線が切れて電圧が不安定になったからだろうか?それとも強風で飛ばされた何かが電線に引っかかってショートを起こしたせいだろうか?
 現代の安定した送電網に囲まれた暮らしを送っていると、電球が明滅する仕組みを想像するのは難しい。それでも電球の不安定な灯りを見れば嵐の晩の不安な気持ちを汲み取れる。時代を超えた優れた演出だ。
 昨晩、ベッドサイドにある電気スタンドの灯りが、まさに映画で見た嵐の晩の電球のように不規則な明滅を繰り返し始めた。昨晩はやや風が強かったが、嵐と呼ぶレベルからは遠く離れている。そんな特に気に留めるまでもない風が、現代の安定した送電網に影響を与えるわけはない。
 嵐よりも、むしろ漏電の方が疑わしい。そのことに気づくと急に不安になった。だが、ゲーム機は元気に動いているし、テレビだっていつもと同じように映像を写している。スタンドの明かり以外はすべて安定していた。ということは、特定のコンセントだけで問題が起きているのだろうか?それとも電気スタンドの不調だろうか?
 まるでぼくの不安を見越したように電球は明滅を続けた。これが心理描写ならベタだがとても分かりやすい。
 明滅に気づいてから2時間ぐらい経ったころだろうか。バチンという小さな破裂音とともに電球がいきなり消えた。映画なら殺人鬼かモンスターが出てくるサインだ。
 しかし、ここは退屈なぼくの部屋。いつもと変わらず手にしたタブレットに怪物が映っているだけで何も起きない。
 部屋の明かりをつけて、ステンドに手を伸ばし電球をクルクルと回して外した。電球に刻印された文字を読んで納得した。
 スタンドに収まっていたのは電球型蛍光灯。ただ単に蛍光灯の寿命が切れただけのようだ。破裂音は電球内部のグロー管がたてた音だろう。LEDだと思いこんでいた電球が、蛍光灯電球だったとは。それが一番の驚き。