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15号

by 唐草 [2019/09/09]



 昨晩、関東を直撃した台風15号は台風の力強さを思い出させてくれる夜をもたらした。関東は台風が海から直接やってくることが少ない。大抵の場合、西日本に上陸してからの到来となるので、関東に差し掛かったときにはすでに牙が抜かれているような状態だ。関東に住むぼくは台風のことを甘く見ている。
 経験だけで大自然を舐めているぼくを目覚めさせるだけの迫力が、今回の台風にはあった。比喩的な意味で目覚めさせてくれただけではない。豪雨と防風が織りなす騒がしい夜が、ぼくのことを寝かせてくれなかったのだ。
 台風がまだ洋上にあった昨日の午後から備えを始めていた。気象庁が発した「(台風接近で)世界が変わる」という詩的な表現が、ぼくの心にグサリと刺さったのである。ここ最近の気象庁は、オオカミ少年とのそしりを受けることを厭わずに情報を発信するようになった。その姿勢からは、やや大げさな印象は残るが専門用語を避けて平易な言葉で情報を発信していこうという決意が感じられる。そして今回の「世界が変わる」という表現。詩人か作家でも雇ったのではないかと思う発表だった。
 その言葉に心を動かされたぼくは「備えあれば憂いなし」を実践すべく小さな準備を重ねていった。雨戸に釘を打ち付けたりとか土のうを用意したりしたわけではないが、飛ばされそうなもの撤去や戸締まりの再確認、停電しても平気な食事の準備などを行った。日曜日だったことも幸いして、備えることをゲーム感覚で楽しんだりもしていた。いつもと違うことをするのは、それが何であれ刺激をもたらしてくれる。
 そして夜を迎えた。叩きつける雨と吹き荒れる風とともに何かがやってきている感じがひしひしと伝わってくる。我が家に置かれたスチームパンクテイストな気圧計は、1000hPaを切る値を指していた。
 安全な部屋にいるぼくにとって、台風襲来は聴覚への刺激となる。風に揺れる雨戸の音、大粒の雨が壁を叩く音、どこかでなにか大きめなものが転がっている音。ベッドに横になっていると、どこかの雨垂れのリズミカルな音がすぐ近くのように聞こえる。ありとあらゆる音が興奮と緊張をもたらし、眠りに落ちる寸前のぼくを休ませてはくれなかった。
 どれぐらいの間、自然の猛威に音に耳を傾けていたのだろう。目が覚めたら静かな朝になっていた。台風が去り静かになったから眠りに落ちたのか?それとも台風に慣れて寝てしまったのか?真相は誰にも分からないが、ぼくをここまで寝かせなかったという事実は今回の台風の力を計るに十分な指標である。
 雨戸を開けて日に照らされた街を眺めても、世界は変わっていなかった。