by 唐草 [2022/10/27]
『人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので...』。
これは国連が掲げる世界人権宣言の前文の一節。今日はこれを何度も目にしている。
見る度に「役に立たない駄文だ」と鼻で笑うのだ。
いつものようにネットにありがちな扇情的な強い言葉で感想を述べるという手法を使っている。ぼくの独りよがりな強がりを正しく理解するためには、いくつかの補足説明が必要になる。
世界人権宣言を目にすることになったのは、国連にも人権にも関係ない。良さげなフォントを無料で入手しようとケチなことを考えていたのがきっかけだ。
GoogleはGoogle Fontsというサービスで様々な言語向けのたくさんのフォントを無償配布している。まだ日本語化されていないけれど、日本語フォントも提供している。制作物にフォントでアクセントを加えたいときには有用なサービス。今日は楽しげな雰囲気の日本語フォントを求めてGoogle Fontsを訪れた。
フォントの配信や販売をしている場所では、文字の形を見比べやすいように同じ文章を異なるフォントで表示するのが一般的。日本の有名フォント会社のモリサワは「デジタル文字は美しく進化する」という短い見本を使っている。それに対してGoogleは冒頭の長い引用を利用している。
この引用はセンスがない。これがぼくが鼻で笑う理由。
どれだけ世界人権宣言が優れていても、この引用部は日本語フォントの見本にはなり得ない。理由は単純。カタカナが入っていないから。
日本語の見本の定番は定まっていないけれど、Appleが昔から採用している宮沢賢治の『ポラーノの広場』からの引用の「あのイーハトーヴォのすきとおった風、」から始まる一文は字種のバランスが良い。
Google Fontsで英語フォントを選んだときの見本の文は世界人権宣言の英語版。これをそのまま日本語に置き換えてしまったのが失敗。翻訳としては正解でも、ローカライズとしては不正解だ。