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着工3ヶ月の謎

by 唐草 [2024/02/22]



 昨年の11月末、近所に建つ並びの2棟の住宅が解体された。パワフルな重機をもってすれば築40年ぐらいの家なんて紙製のように壊されていく。数日間、重機の奏でる轟音と作業員が交わす耳慣れぬ外国語の声だけが住宅街を支配していた。
 轟音と耳慣れぬ外国語が止むと、そこにあった2棟の家は跡形もなく消え去っていた。
 地主のジジババ世代が亡くなるたびに古い家が1つ消え、そこに1平方センチも無駄にするまいという勢いで新たな家がいくつも建つ。もう何年もそんなサイクルを見てきた。今回は一度に2棟解体されたので、かなり大きな土地が空いた。おそらくアパートが建つのだろう。
 工事が進むと、一般的な住宅を2棟並べたぐらいの大きな建物のシルエットが見えてきた。アパートか?それともメゾネットタイプの住宅だろうか?
 今の建築工事は、工場で作られた建材をプラモデルのように現場で組み立てていく。どの家もあっという間に建っていく。
 だが、その工事は様子が違う。
 すでに着工し始めて3ヶ月になろうとしているが、未だに足場に巻かれた幕の中。毎日、何かを叩いたり切るような音が少しだけ聞こえてくる。
 住宅工事にしてはあまりにも進行が遅くないだろうか?
 気になったので工事の詳細が書かれた看板を確認してきた。
 そこには「〇〇様宅」と書かれていた。その名前は以前の住人。どうもこの家は、相続で売り払われたわけではなく建て替えのようだ。それも空き家だった隣家を買い取ってまでの大規模な建て替えだ。
 工事中の家の外壁を見るとどうも総モルタル作りのように見える。パネルを使う現代的なコスパの良い方法は使っていないようだ。これも工事が長引く要因なのだろう。
 それにしても、この現場は静かすぎる。一箇所から工具の音がするだけで声がしない。まるで一人で作業をしているかのよう。
 そう言えば、ここの元住人は石窯を庭に自作するような人だった。大工仕事の心得はあるようだ。もしかして趣味と実益を兼ねて自分一人で家を建てているのではないか?
 そうでもなければ、着工3ヶ月で家が完成しない静かな工事の理由を説明できそうにない。