by 唐草 [2024/02/24]
ぼくは人伝にくる小さな案件をチマチマこなして食い扶持を稼いでいる。「誰に発注したら良いか分からない」というSOSに対応することもある。
先日、大きな組織の中の小さな部署が組織内向けに情報発信する手伝いをした。その小さな部署は、発信に必要なスキルがない自覚はあるが、外部業者に委託するほどの予算はないというジレンマに陥っていた。
こういう案件こそぼくの得意分野。一人で請け負うから中抜きがなく会計明朗だし、依頼主の意向を理解して制作に望めるからだ。
依頼は、内向きの情報発信用Webサイトと、それのPRと最新情報を伝える社内広告のような印刷物のテンプレートを作って欲しいというものだった。印刷物は得意ではないが、何万部も刷るような本格的なものではない。求められているのは位置ずれしないWordファイル程度のものだった。
案件としてはデザイン寄りだ。素人相手のデザイン案件は面倒なことになる場合が多い。発注側に確たるイメージがないので、こちらの提案を見て「なんか違う」と漠然とした返事しか返ってこず修正の繰り返しになることがあるからだ。
そうなることは容易に見越せたので、こちらも対策をとった。
大切なのは、先方に「自分で選んだ」という意識を植え付けること。だから、最初に叩き台として簡単に作ったA案とB案を示して方向性を確認してもらう。ただし、B案は始めからクソなものを用意しておくことで、確実にA案を選ばせる作戦だ。
目論見通りぼくが得意とするA案を選んでもらえた。では、本格的にA案を作り込んでいくかと思った矢先に意外な一言が来た。
ぼくが叩き台として作った、つまり手を抜いて作ったA案を気に入ったらしい。もうこれで十分だと言う。
えっ、それでいいの?これって「白と黒のどっちが良いか」を確認してもらう程度の作り込みしかしていないし、ここから会話を重ねるものだと思っていた。まるで面接へ行ったら挨拶だけで採用が決まったような感じだ。
結果としては作業量が想定の半分以下になった美味しい案件とも言える。だが、手を抜いたものが世に出るのは不本意だ。