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口の外で

by 唐草 [2024/01/03]



 歯を磨こうと電動歯ブラシを口に突っ込んで、太いボディーの中央にある大きなスイッチをいつものように親指で押した。だが、歯ブラシはうんともすんとも言わなかった。もう一度ボタンを押す。だが、2度目も結果は同じ。電動歯ブラシは微動だにしなかった。
 昨日歯ブラシを使ったときに充電切れの警告は出ていなかった。もし夜のうちに充電が切れたのだとしたら、夜中に勝手に歯ブラシが動いていたことになる。もしそんな事が起きていたら微細振動を起こす歯ブラシは倒れていただろう。ぼくが手に取った時、歯ブラシは昨日と同じように立っていた。だから、充電切れではないはずだ。
 充電切れでないとなると考えられるのは、スイッチの破損だ。先代の電動歯ブラシは
スイッチの破損で使えなくなった。またしても同じことが起きたのだろうか?
 動かない電動歯ブラシを口に加えたまま考えていても埒が明かない。歯ブラシを口から取り出して、睨むような目でスイッチを凝視した。シリコン製のスイッチカバーは少し劣化しているが、あからさまな破損は見当たらない。とは言え、水場で使う道具なので人知れず浸水している可能性もある。
 口から出した歯ブラシのスイッチをもう一度押して見る。やはり反応はない。今度はもう少し力を込めて押してみる。それでも動かない。続いて、秘孔を探すように角度と位置を変えてスイッチを押す。
 すると何度目かに秘孔を突いたようだ。
 突然、手に持った歯ブラシが勢いよく左右にブルブル高速振動し始めた。動いてほしいとは思っていたが、本当に動くなんて考えてもいなかった。
 手に持った歯ブラシは、ヘッドに付いた水分と歯磨き粉を勢いよく撒き散らしていく。歯ブラシを止めようと慌ててスイッチを押すが、破損気味のスイッチはいくら押しても反応がない。どうすればいいんだ?歯ブラシの動作が終わる2分がすぎるのを指を咥えて眺めているしかないのか?
 咥えるべきは指じゃなくて、歯ブラシだろ!
 そんな単純な事実に気づくまでおよそ5秒。その判断は遅すぎた。洗面所は細かく飛び散った歯磨き粉のカスにまみれていた。その後、歯ブラシは2度と動かなかった。