by 唐草 [2017/06/08]
ふと毎日被っているハンチング帽の内側が目に入った。グレーであるはずの布が、本来の色からかけ離れた色になっていた。
マイルドな言葉を並べて事実から目を背けている場合では無い。事実に気がついた時のぼくの素直な言葉を借りると、ようするに「すっげー、よごれてる」のだ。
この汚れの正体はいったい何なんだろう?
汗、皮脂、埃、泥。ありとあらゆるものが混じったものなのだろう。一度汚れに気が付いてしまうと、恐ろしく汚いものを頭の上に載せていたとしか思えなくなってしまう。汚れの大半が、自身の代謝によって出たものだとしてもだ。
このまま放置していたら、帽子から腐海が生まれても不思議はない。すでに胞子を振りまいている可能性だってあるかもしれない。早急に洗う必要がある。それも徹底的に。
グレーのハンチングを水を張った洗面所に投げ込む。そして、規定量よりはるかに多いであろう量の液体洗剤を投入する。大量の泡で一気に汚れを流そうという作戦だ。
洗濯ブラシを片手に帽子をもみ洗いしていく。
だが、洗面所に張った水が茶色に染まっていくばかりで、一向に泡が立たない。これって、数日風呂に入れなくて何日ぶりかに頭を洗ったときと同じで、汚れすぎで泡が立たないパターンだ。
そうか、そんなに汚れていたのか…。そう言えば、久しく帽子を洗っていないような気がする。春に洗った記憶は無い。冬は寒いから洗っていないだろう。だとすると、去年の夏の終わりに洗って以来ということになるぞ…。それならば、この汚れも納得だ。って、納得している場合では無い。己の怠慢さを恥じるべきである。
一度洗いではまったく歯が立たなかった。水を張り替えて二度目の洗いでようやく泡を目にすることができた。
洗い上がったハンチングは、グレーと言うより白に近い色になっていた。脱色してしまったということは無いだろう。徐々に汚れていくうちに、ぼくの記憶がすり替わってグレーのハンチングという認識になっていたようだ。恐ろしい。