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知らぬ間に

by 唐草 [2015/05/30]



 小笠原沖の地中深くで大きな出来事が起きていたちょうどその時、ぼくは知人らと食事を楽しんでいた。
 ドイツ料理の店だったので苦手なビールと悪酔いしがちなワインしかなくて、ぼくはひとりジンジャーエールを飲みまくっていた。揺れがやってきたとき、素面だったのはぼくだけ。初期微動の頃から揺れに気がついていたが、緊急地震速報も鳴らないので特に気に止めないでいた。ぼくが揺れに気がついて10秒ぐらい経った頃だろうか、本震が店を揺さぶりだした。でも、酔っぱらい組は気がついていない。隣のテーブルで飲んでいた見知らぬ人も揺れに気がついている風はなかった。
 今回の地震の揺れは長かった。それは、酔っぱらいでも異変に気がつくほどに。
 壁にあるハンガーが左右に揺れていた。その様子に気がついて酔っぱらい組も揺れているのがアルコールによる錯覚ではなくて、現実のものだと気がついたようだ。ここまでで20秒ぐらい経過していたと思う。
 ぼくの体感震度だと3か4といったところだ。4はなかったかもしれない。どんな具合なのだろうかとタブレットを取りだしてみたものの、WiMAXの電波が届いていなかった。知人がスマホで地震の速報を確認してくれた。「震源は小笠原の方で、最大震度は4」という速報をネットが繋がらなくてあたふたしているぼくに教えてくれた。
「遠くの地震だし、震度4なら平気だね」というような穏やかな雰囲気に包まれた。なので地震の話題は、後を引くことなく終了した。
 何事もなかったように、ぼくはジンジャーエールを飲み続け、知人らはビールを飲み続けていた。
 談笑しながら時間は過ぎていく。ラストオーダーの時間も過ぎ、店員が店を片付け始めるまで店にいた。10時までの店だったが、店を出た時点で10時30分ぐらいだった。
 当然、地震の情報は第一報のままで止まっている。
 駅に着くと、電車の運行案内の時間表示が消えていた。中央線にありがちな人身事故か?土曜だしお客様トラブル(ゲロ)あたりでダイヤが乱れているのだろうとしか考えなかった。乗った電車も空いていたので、いつも通り帰宅した。
 家でテレビをつけて初めて事の重大さを知ることとなった。
 マグニチュード8.5?最大震度5強?山手線はまだ動いていない?高層ビルには人が取り残されている?
 なにもかも寝耳に水だ。別の世界に放り込まれたぐらい現実味がない。知らぬ間にこんな事になっていたとは。