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事件は1m横で

by 唐草 [2023/06/19]



 銀行に行ったらATMコーナーの隅に制服警官が3人も立っていた。3人の視線は銀行の角に注がれていて、犯罪抑止のために利用客に睨みを効かせている風ではない。行員を交えて緊張気味だがボリュームを抑えた声で何かを確認していた。
 そんな見慣れぬ状況からぼくは察した。ははーん、振り込め詐欺があったんだなと。
 警官3人と行員が立っているのは、ぼくが操作するATMの隣の隣。1mも離れていない。だから、声を抑えていても話は丸聞こえ。会話の断片から徐々に状況が掴めてきた。
 「付近の防犯カメラを確認するように手配している」との声が耳に飛び込んできた。銀行での犯行ならバッチリと防犯カメラに写っているだろう。そして、警察の命令とあれば現場の銀行以外の防犯カメラ映像も抑えられるものなんだと感心してしまう。探しているのは、出し子だろうか?
 ところが、続く会話はぼくの予想とは異なる展開を見せた。
 「消化器が動いていた」、「消化器の横に燃えた紙があった」と消化器を中心とした話題が続く。振り込め詐欺らしい言葉は1つも出てこない。
 聞こえてきた声をざっくりまとめると、銀行の角に置いてある消化器が勝手に動かされており、それを戻そうとした行員が燃えた跡のある紙を見つけたということだった。幸いにも火の手も煙も上がらなかったようだ。
 とは言え、火の手のない場所に燃えカスがあったということは、意図的に火を付けた紙を置いた可能性が高い。何も焦げてなくても、放火未遂と言ってもいいのではないだろうか?
 次々と飛び出す緊迫した内容を告げる言葉に、ほぼ盗み聞き状態のぼくまでドキドキしてしまった。そのせいで、ATMをちゃんと操作できたか一抹の不安がある。不安に追い打ちをかけるように隣のATMが警告音を放つ。ぼくの隣の利用客も聞き耳を立てていてきちんと操作していなかったのかもしれない。そんなこともあり、銀行を後にする際もカードや通帳を忘れているのではないかと妙に不安が残った。
 トラブルがあっても通常営業を続ける銀行とは対照的に、ぼくだけ非常事態となったATM操作だった。