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仕様書発見

by 唐草 [2018/05/21]



 昨晩、仕事机の隣に置いてある本棚の最上段が崩壊しかけた。1つのクリアファイルを取り出そうとしたのだが、無理矢理突っ込まれている紙束の圧力がそれを許さなかった。まるで紐でつながれているかのように様々なファイルが、一斉に本棚の外へ逃げようと顔を出してきたのだ。よく見ないでクリアファイルを引っ張り出していたら、最上段に収められた大半のものが床に落ちていたことだろう。
 改めて本棚を見てみたら、あまりに多くのものが雑然と詰め込まれているのは火を見るよりも明らかだった。本棚とは名ばかりで、実際のところは紙束入れとしか形容しようがない有り様だった。
 ここに収められているすべての物が、本当に必要なものだとはとても思えない。なにせぼく自身も何が入っているか把握できていないのに何ら困ってないのである。どう考えても、いらないものが大量に収められているに違いない。
 無造作にねじ込まれた数冊のバインダーを丁寧に取り出してみる。緑のバインダーは保証書入れとして使っている。オレンジのバインダーは説明書入れだ。その使い方に間違いは無かったのだが、すでに本体が処分されている機器の保証書や説明書が何枚も収められていた。本体がなければ、こんなものゴミでしかない。
 また、別のクリアファイルには大量の領収書が収められていた。Suicaをチャージしたときに印刷される大きな切符のような領収書だけで、トランプ1セットが作れそうなほどのボリュームだった。いったい何年前から取ってあるんだろう。大人の事情で年度末に領収書が必要になる場合に備えてキープしていたものを結局使わずに放置していたのだ。今となっては、これもゴミである。
 残念なもので、ゴミ箱はあっと言う間にいっぱいになっていった。それでも本棚が整理された印象は、ほとんど無いままだ。
 ただ、残念なものばかり発掘されたわけではない。とても懐かしいものが出てきた。
 ぼくはひとりで開発を行うので、いわゆる仕様書は一切書いていない。ただ、何も書かずに脳内のイメージだけでものを作れるほど賢くもない。落書きレベルのメモ書きに必要機能と簡単なアルゴリズムやデータ構造などを列挙して備忘録的に使っている。強いて言えばこれが仕様書なのだろうが、ぼくにしか読めないので他の誰の助けにもならない。
 落書き仕様書はファイルの中で年代順スタックになっていたので、まるでぼくの開発誌のような時代の層を成していた。一番上は、先日開発したMoodleモジュールのメモ書きだった。反対側、つまり一番下を確認したら懐かしいものが収まっていた。大学時代に作った不思議なダンジョンのステージ生成アルゴリズムとアイテム使用メソッド一覧表だった。他にも様々なメモがあったが、すべてが残っていたわけではない。苦労せずに開発したものは、ほとんど残っていなかった。メモすら作る必要がなかったのか、思い入れが無かったのでメモを捨てたのかは今となっては不明である。
 基本的に整理魔で容赦なくいらないものを捨てるぼくではあるが、同時に想い出に弱い面もある。この仕様書の束は、捨てられなかった。きっと感傷が、今日まで紙束を生き残らせてきたに違いない。