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海外旅行へ連れて行って

by 唐草 [2023/04/28]



 叔母がフランスへ行きたいと心から願っていると知った。かなり昔から願っているらしい。モネが好きだと言っていたが、現地を訪れたいほどだったとは。
 ようやくコロナも収まり海外旅行にも気軽に出られそうになったかと思えば、円安が芽生えたばかりの気軽さを刈り取ってしまった。また、今のフランスの情勢を考えるとすぐに行くのは得策ではない。せっかくの観光旅行なのに、ホテルの外でデモ隊が声を上げていたら楽しい気分もしぼんでしまう。フランス人はデモ好きな国民性だと知っていても。
 叔母の場合、年齢の問題もある。モタモタしていると行けずじまいで人生を終えてしまうかもしれないとも考えている。それだけは絶対に避けたいそうだ。
 人生の大きな節目になるぐらいに海外への憧れがあるようだ。その秘めたる情熱に驚かされた。
 ぼくはアメリカ(と数時間だけカナダにも)とイギリスへ行ったことがある。アメリカは家族旅行で、イギリスは仕事での訪問だった。どちらの旅も貴重な体験だった。だが、その旅程にぼくの意思は介在していない。敷かれた真っ直ぐなレールを走る特急のようにスケジュールをこなすのに精一杯だった。ロンドン市街を散歩できた程度で、憧れの地を尋ねたり、夢を実現する余裕なんてこれっぽっちもなかった。
 こんなぼくの振る舞いを「せっかくの機会なのにもったいない」と思う人もいるだろう。だが、とことん受け身の旅になってしまったのには理由がある。
 アメリカもイギリスも好きな国ではあるものの、現地へ赴いてまで実現したい強い憧れなんてなかったからだ。ようなつまらない人間らしいつまらない理由だ。
 では、他の国ならどうなのか?行ってみたい場所はあるのだろうか?
 すぐに思い浮かぶ土地も国もない。じっくり考えてもたぶん同じ答えにたどり着く。
 全額負担してやるし、どんな無理難題でも聞いてやるから1つ挙げろと迫られれば、渋々ペンギンを見に南極へ行ってみたいと言うかもしれない。その旅だって、アルゼンチンに着いたあたりで不満をたらたら述べていそう。
 そんな自分を想像して、ぼくは根っからの引きこもりなんだと痛感する。