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2012/04
     
       

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ガガガガガ

by 唐草 [2012/04/15]



 広い敷地を持つ近所の某大学は、周辺住民に対して門戸を開放している。構内には、学校の歴史を感じさせるような立派な木々が並んでいる。ケヤキなんかが多いので新緑の季節が一番綺麗かもしれないが、校舎の影から桜がチラホラ顔を覗かせていた。
 春を告げているのは木々だけではない。大きなグラウンドには、どこか動きがおぼつかない学生がたくさん集まっていた。グランドで競技をしている様子はないので、彼らは観戦をしているのではなさそう。きっと新入生歓迎のイベントか何かだろう。なんとも春らしい光景だ。
 学内の木がうっそうとした場所へ差し掛かったときのことだった。頭上から「ガガガガ」というような耳慣れない機械的な速いペースの音がした。強いて言えば、カラスが早口で鳴いているような感じ。いったい頭上では何が起きているのだろうか?
 異様な鳴き声の正体を見極めようと枝を見上げてみる。込み入った枝の中から鳥を探すのは容易なことではない。少しずつ移動しながら様子を探っていく。音は依然続いているが、カラスの姿はどこにも見あたらない。その代わりに、枝に止まったハトがいた。
 カラスとハトが仲良く近くに止まっているとは思えない。ここにはカラスはいないのだろうか?
 断続的に続く耳慣れぬ音に近くを通る人たちの多くが上を見上げている。
 周囲の工事の音か何かが反響して上から聞こえてくるのだろうか?そう思って周囲を見回したが、休日の午後の大学に工事の気配は無かった。
 音の正体が気になって仕方がない。周りの人は頭上を見上げて通り過ぎるだけだが、ぼくは執念深く木々を睨み続けていた。次第に目が慣れてくると、木々の間を跳ね回る小さな生き物が見えてきた。天然の迷彩模様が見事なカモフラージュをしているので分かりにくいが、小さな鳥が木の幹に貼り付いていた。
 これはひょっとすると、あの音か?
 実際には見たことも目にしたこともないので、自分の推測が当たっていることを期待しながら小鳥の様子をつぶさに見つめていた。
 ぼくの推測は当たりだった。あの機械的な「ガガガガ」という音の正体は、コゲラが木の幹をつつく音だった。
 スズメよりちょっと大きい程度の小さな鳥が木の幹をつついてカラスの鳴き声ぐらいの大きさの音を立てるのには驚いた。あの小さな体のどこにそんなパワーがあるのだろう。それに秒間5回ぐらいのハイペースで木をつついてもびくともしない彼らの脳はどんな構造をしているのだろう。想像以上にパワフルなコゲラに見入ってしまったひとときだった。