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身元確認

by 唐草 [2012/04/17]



 道端に無造作に置かれた死体。冷たくなった彼の口は二度と自らの名前を騙ることはない。怠惰そうにやってきた刑事が、慣れた手つきでズボンやジャケットのポケットをかき回す。おもむろに財布を取り出し、その中身をあらためる。
 こんなシチュエーションは日常茶飯事な気がするが、それはぼくがミステリー漬けだからだろうか?
 多くの場合、財布に残された運転免許証から哀れな死体の名前を見つける。もしくは空になった財布を見て、この殺人が偶発的なものではなく犯人が証拠を隠そうとしていることに気がつく。さあ、推理が始まるぞ!とワクワクが広がるのはフィクションの世界だけ。
 さて、話を現実の世界に少しだけ戻してみよう。
 仮にぼくが屋外で発作を起こすなりして急死したとしよう。そこへ警察が来て、冒頭に書いたように財布を捜したとしよう。ぼくの財布を見て捜査員たちは何を思うだろうか?
 自分の財布を改めて確認して気がついたのだけれども、ぼくの財布の中には本人確認ができるものや公的な効力がありそうな名前を示すものが何も入っていない。運転免許は取得していないし、クレジットカードも持っていない。領収証を円滑にもらうために契約している会社名義の名刺を1枚だけ財布に入れているが、住所が5年前のもの。保険証だとか定期券すら入っていない。カード類はSuicaとヨドバシのポイントカードが入っているが、名前を確認するには手間がかかりすぎる代物だ。
 そんな訳でぼくの財布は、誤って落とた後に善良な市民の手によって交番へ届けられてもぼくのものだと証明できず財布を取り戻すのが叶わないほどに匿名性が高い。さらに現金も3千円程度しか入っていないことが多い。
 変死したぼくの鞄から、お金もIDも入っていない財布が見つかる。この財布のせいで捜査があらぬ方向へと進んでいってしまうのではないだろうかと心配になってしまう。日頃の菓子パンばかりの不摂生な生活がたたって急死しただけなのに、金銭目的の強盗事件として扱われてしまうのだろうか?
 こんなアホなことを考えながら食べる菓子パンは今日もうまい。