by 唐草 [2014/03/25]
電車の中でぼくの前に座ったスーツを着た通勤電車の典型的なスタイルのおっさんが不審な面持ちでスマホを見つめている。耳にはイヤホン、画面はタッチしていない。このスタイルから察するに動画でも見ているのだろう。それにしてもにやついた表情だ。いったい何を見ているのだろう。
正面に立っているぼくの位置からは、当然ながら画面は見えない。
だが、ふと目を上げるとおっさんの背後のガラスにスマホの画面が写っていた。ハッキリとは見えないが、どうやらテレビでもお馴染みの映画監督とかやっちゃうベテラン大物芸人らしき人が映っている。
そうか、このおっさんは録画したテレビ番組でも見ているのだろう。
その事実が分かると、先程まで不審に見えていたおっさんの表情が違って見える。
不審なことは変わりなく不審なのだが、それは必死に笑いをこらえている顔なのだと理解できる。だが、笑いへの抵抗は敗北寸前だ。口角に笑いの気配が見え隠れしている。これが、にやついている不審な顔に見えてしまう。
この表情、ハッキリ言って気持ち悪い。
正面に立って汚いものを見るかのような目つきでおっさんを観察しているぼくも救いがたく悪趣味だが、座席でニヤニヤ笑いをこらえているおっさんも見苦しい。
暇な通勤電車の中。人に迷惑を掛けないのであればどんな方法で時間を潰してもかまわない。ゲームをしようが、動画を見ようが、音楽を聴こうが好きな方法で時間を潰せばいい。
でも、コメディーを見るのはやめておいた方がいいだろう。少なくとも本人は必死に笑いを堪えて冷静さを保っているつもりのようだが、かみ殺したつもりの笑いは周囲へバレバレ。おもしろい動画を見ているのだと言うことが分かれば多少同情の余地があるかもしれない。でも、スマホを通して何を見ているのかが分からない限り、ただのニヤニヤしている気持ち悪い人にしか見えない。